大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(特わ)556号 判決

国籍

韓国

住居

東京都目黒区碑文谷二丁目二一番六号

キャッスル共進マンション六〇一号

会社役員

川村英二こと

韓大乙

西暦一九一〇年一一月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官五十嵐紀男出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年六月及び罰金四、四〇〇万円に処する。

二  被告人において右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

三  被告人に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、株式会社明工社、明工産業株式会社、株式会社福島明工社、明工商事株式会社の代表取締役としてその経営にあたるとともに、東京都目黒区碑文谷二丁目一番二〇号において「川村商会」の商号で配線器具の製造販売業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右「川村商会」の売上及び期末棚卸の一部を除外し、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五四年分の実際総所得金額が一億二、一八〇万二、五三九円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)にかかわらず、昭和五五年三月一四日東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号所在の所轄目黒税務署において同税務署長に対し、昭和五四年分の総所得金額が一、八八七万四、五七五円でこれに対する所得税額が二五五万五、三〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書(昭和五八年押第五六三号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額六、九二二万六、二〇〇円と右申告税額との差額六、六六七万〇九〇〇円(別紙(三)逋脱税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五五年分の実際総所得金額が一億六、二四二万六、三四三円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)にかかわらず、昭和五六年三月一一日前記目黒税務署において同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額が一、七八三万八、五七五円でこれに対する所得税額が二三一万六、三〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書(前同押号の二)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額九、九九五万七、七〇〇円と右申告税額との差額九、七六四万一、四〇〇円(別紙(三)逋脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書

一  崔泌順、久保田佳男、栗田貞夫、川名健之、佐々木八千子、小野晟、半田恵美子、吉野栄子、山岸久子、渡辺俊子の検察官に対する各供述調書

判示各事実、特に過少申告の事実及び別紙(一)(二)修正損益計算書の各公表金額、別紙(三)逋脱税額計算書の申告税額、所得控除額につき、

一  押収してある所得税確定申告書二袋(昭和五八年押第五六三号の一、二)

判示各事実、特に別紙(一)(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の売上調査書(別紙(一)(二)修正損益計算書の勘定科目中、各事業所得〈1〉につき)、棚卸高調査書(同〈2〉、〈3〉、〈5〉、〈10〉、〈11〉、〈12〉につき)、原材料仕入高調査書(同〈4〉につき)、労務費等調査書(同〈6〉、〈7〉、〈8〉、〈9〉、〈13〉、〈14〉、〈15〉、〈16〉、〈17〉、〈18〉、〈19〉、〈20〉、〈21〉、〈22〉、〈25〉、〈26〉、〈27〉及び別紙(一)修正損益計算書の勘定科目中事業所得〈28〉、〈29〉、〈30〉、〈31〉、〈33〉、別紙(二)修正損益計算書の勘定科目中事業所得〈28〉、〈29〉、〈30〉、〈31〉につき)、減価償却費調査書(別紙(一)(二)修正損益計算書の勘定科目中各事業所得〈23〉につき)、福利厚生費調査書(同〈24〉につき)、固定資産除却損調査書(別紙(一)修正損益計算書の勘定科目中事業所得〈32〉につき)、事業専従者控除額調査書(同〈34〉及び別紙(二)修正損益計算書の勘定科目中事業所得〈32〉につき)、定期預金利息調査書(別紙(一)(二)修正損益計算書の勘定科目中各利子所得〈1〉につき)、信託収益分配金調査書(同〈2〉につき)、受取配当金調査書(別紙(一)(二)修正損益計算書の勘定科目中各配当所得〈1〉につき)、給付補填備金調査書(同各雑所得〈1〉につき)、資産所得調査書(別紙逋脱税額計算書摘要欄〈7〉、〈8〉につき)、受取配当に対する源泉税調査書及び源泉徴収税額調査書(同〈19〉につき)

判示各事実、特に別紙(一)(二)修正損益計算書の勘定科目中の各経費科目につき

一  押収してある所得税確定申告書二袋(前同押号の三、四)及び所得税青色申告決算書二袋(同押号の五、六)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一、二項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があった場合であるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法である右改正前の所得税法二三八条一、二項を適用しいずれも所定刑中懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、罰金刑については同法四八条二項により合算額の範囲内において主文第一項記載のとおりの刑に処し、同法一八条により主文第二項記載のとおり右罰金不完納の際の労役場留置期間を定め、情状により右懲役刑については同法二五条一項を適用し主文第三項記載のとおりその執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

被告人の本件所得税逋脱の犯行は、過去の不況時にからくも倒産を免れた苦い経験から自己資金蓄積の必要を痛感した被告人が、不況時に備え自己資金を貯えておきたいとの動機に出たものであるとはいえ、創業者として代表取締役をしている明工産業株式会社外三社の役員報酬及びその株式の配当所得以外の所得、即ち個人として経営していた「川村商会」からの事業所得については、スクラップの一部の売上除外、黄銅条その他の伸銅品、プラスチック等の原材料の一部架空仕入の計上や棚卸しの一部除外を行なう等の所得秘匿工作を行なった上妻崔泌順名義でその所得税を申告し、また他の株式からの配当所得や利子所得については一切確定申告書に計上することなく、判示のとおり起訴にかかる二年分で合計一億六、四三一万二、三〇〇円の所得税を逋脱したものであり、その逋脱割合は九六・三パーセント(昭和五四年分)、九七・六パーセント(昭和五五年分)に達していること、被告人は右の方法による所得税逋脱を昭和五一年ころより続けてきたものであること等の事実に徴すれば、被告人の刑事責任は厳しく追及されなければならぬものがあるといわなければならない。しかし被告人は本件発覚後は率直に逋脱の事実を認め、すすんで査察に協力して資料を提出し、逋脱所得税については重加算税、延滞税を含めて完納し、これに伴う地方税についても納付ずみであること、昭和五六年分以降については正当に納付し、また自ら責任をとって関係会社の代表者を辞任するほか川村商会についても法人組織とする予定であり、再犯のおそれなきことを誓って反省していると認められること等の有利な情状も認められる。そこで本件に顕れた一切の情状を総合斟酌し主文のとおり量刑する。

(量刑上の検察官の意見、懲役一年六月及び罰金五、〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

別紙(一)

修正損益計算書

川村英二こと韓大乙

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

川村英二こと韓大乙

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

逋脱税額計算書

川村英二こと韓大乙

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例